一之瀬六樹『たまこラブストーリー』の感想

映画じゃなくてノベライズの方です

いわゆるノベライズってやつです。映画のノベライズとか、コミカライズとか、なんでそんなのあるの? どんな層が読むの? って思ってましたが、当事者になりました。こういう需要なんですね。

ノベライズ担当するってどんな気持ちなんやろと

みどり編、たまこ編、チョイちゃん編とあるんですが、みどり編、たまこ編は映画版をベースにしていて、映画と別物にすることは許されてないっぽいので、なんか窮屈そうな感じで書いてるな、という印象です。

映画の内容を補完する形でみどりとたまこの胸の内が描かれてるんですが、わりと単純な感情しか描かれてなくて、いや、映画の方はもっと微妙な感情だったやんと思うわけです。

言語化できないところを突いてきてるのに、言語化を要求されるってきついですよね。

なんかこの、一之瀬六樹さんという作家の方に肩入れしてしまって。読みながら。

いろいろ大変だろうけど、小説書いて生きていきたいんだろうけど、世の中そんな甘くないよな…。大変だよな…。とか思いながら読んでました。

「京アニさんで小説を書かせてもらえる!」と目を輝かせて打ち合わせに臨んだところ、かなりきつい枠の中で書かなければいけないことを伝えられ、「…それなら、別に誰が書いても変わらないのでは…」と一瞬後ろ向きの気持ちになるものの、「でもせっかくのチャンスなんだから、ベストを尽くさないと!」と気持ちを切り替えて書いたんだろうなーというのが伝わってきます。文章のはしばしから。

この人、一ノ瀬六樹さん、たぶん「キャラ同士の面白い感じの掛け合い」を書きたい人なんですよ。コントとか漫才的な。

そういう方向になると筆が乗ってくるというか、楽しそうに書いてるなと思うんですけど、ストーリーを進めないといけない時間が来ると目が死んでる感じです。そんな印象を受けました。

思いのほか脳内再生される

これ、発見だったんですが、よく「脳内再生余裕」とか言うじゃないすか。昔のネット民たち。でも本当に脳内再生される。音声が。

たまこのセリフはたまこの声で、みどりはみどりで、チョイちゃんはチョイちゃんで再生されるんですよ。文字なのに。デラの口調とかも脳内再生されるし、なんだったら脳の中でデラ動いてるからね。羽ひらひらさせて。体くねらせて。

ここまで脳内再生されるとは思ってなかったので、カルチャーショックでした。だからノベライズ版出すんだなーと。効率いいもの。

みどりはガチレズなのか

これは改めてものすごく長い文章を書きたいんですが、たまこシリーズの大きな謎として「結局のところ、みどりはガチレズなのか」というのがあるんですね。ガチレズか否か、っていう二択ってことはないんですが、じゃあどんな感じなの? っていう疑問が頭から離れないんです。

そういう観点でみどり編を読んでたんですが、この小説版では「たまこを独占したい一方で応援もしたい」という、まあごくノーマルな設定になっていて、つまんないけど、案外そんなもんなのかもな、とか思ったりしました。

でも本当はガチレズであることを望んでる。ドラマとして、その方が面白いから。

「ガチレズのほうがドラマとして面白いから」とか書いたら、なんかめちゃくちゃ怒られそうな気もするんですが、これ逆に言わせてもらうと「ドラマとして面白くなくなった時。その時が本当に差別がなくなった時だね…」ってことやからね。

でもそういう社会的な差別とかもまあ、それはそれで日々是正していったらいいと思うんですけど、そういうのを全部とっぱらったとしても「レズの女の子がレズじゃない女の子を好きになる不幸」っていうのは残り続けるわけじゃないですか。それはもう、差別とかじゃないからね。

伝えたいのに伝えられない、このやるせないモヤモヤがあるじゃないですか。この「やるせないモヤモヤ」について唄った歌を載せときます。

コトリンゴ -「 悲しくてやりきれない 」

百合ものの本質はそこなんですよ。本質とかいうとまた語弊があるから、本質とかじゃなくて、百合には大きく分けて2パターンあって、

  1. 好きなのに好きと言えないせつなさを悶える
  2. 秘密の共犯関係にある二人のいちゃいちゃにニヤニヤする

となるわけですが、私が好きなのは1の方です。

2を否定する気はありませんが、「秘密を抱える二人」まではまあいいとして、そのあとアパートに帰ってきてめちゃくちゃセックスしたりするじゃないすか。それが、どうもね、苦手でね。

もうそうなると秘密でもなんでもないじゃんよ、ってなるんですよ。性欲の強い普通のカップルじゃん。それ百合である必要ある〜?

話をみどりに戻しますが、みどちゃんのレズ度ってのはやっぱり大事なんですよ。それで話が全然変わってくるわけだから。

そう思って、みどりのレズ度を調べる資料としてみどり編を読んだんですが、前述したように普通の内容だったので肩透かしを食らった形になった、とこういうわけです。

チョイちゃん編は良い

そんな感じで、たまこ編もみどり編も、まあ、正直あんまり面白くないなーと思いながら読んでたんですね。面白くないというか、公式の設定としてはあんまり面白くしてもダメなのかなと。

その流れでチョイちゃん編に入るんですが、チョイちゃん編は良かったです。一之瀬六樹、本気出してきたな、って感じです。

本当に、普通にいい話なんですよ。何がどうってことはないんですけど、読んでて涙が流れて流れて。

王子がめちゃくちゃかっこよくて、チョイちゃんがめちゃくちゃかわいいんですよ。もうそれで十分じゃん。

読もう

『たまこまーけっと』『たまこラブストーリー』を面白いと思った人は読むといいです。ノベライズといって軽く見ず、尊重しましょう。